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【AI活用先進企業特集】双眼鏡で在庫確認していた受注現場を、うまい棒のやおきんはどう変えたか

2026.10.29生産性向上
AI活用先進企業インタビュー 株式会社やおきん「双眼鏡で、在庫情報を確認する。」

「電話を保留にして、ホワイトボードまで見に行くんです」

株式会社やおきんの栗林雅治さんが振り返るのは、受注の電話を取っていた頃の光景だ。取引先から「この商品、次の納期はいつ?」と聞かれても、すぐには答えられない。答えは事務所の奥に立てかけられたホワイトボードの中にあるからだ。ボード上には「今欠品中」「来月入荷」——そんな情報が所狭しと書き込まれている。

ただ、近視の栗林さんには、離れたその文字がうまく読めない。電話を保留にし、席を立ってホワイトボードの前まで確かめに行く。ベテランの先輩たちは、百円ショップで買った小さな双眼鏡を机に置き、それを覗きながら電話に応じていた。うまい棒をはじめ、全国に駄菓子を届けるやおきん。その受注現場は、DXを進める前はここまでアナログだったのだ。

そのパート業務には、高度な専門性が要求されていた

やおきんには、電話以外にもFAXによる紙の注文書も大量に届いていた。「繁忙期だと100枚、200枚は当たり前」。届いたFAXは、まず大きなテーブルの上で客先やチームごとに仕分けされ、それぞれの箱へ配られていく。受注担当はそこから一枚ずつ内容を読み取り、基幹システムへと手で打ち込む。

大変だったのは、その一件一件に“社内の暗黙知”が絡むこと。この得意先はこの届け先に注意、この商品はこの条件で、という膨大なルールを頭の中に叩き込み、瞬時に判断しなくてはならない。栗林さんはそれを「高度でプロフェッショナルな事務仕事」と表現する。

「受注業務のためにパートさんを採用していたのですが、スーパーのレジ打ちと同じような時給の中で、『これを全部覚えなきゃいけないの』と事務職経験者でもみんな面食らっていました」

一通り覚えるまでには数ヶ月かかる。そして、やっと覚えた頃に、家庭の都合で辞めざるを得ないという方も多かった。せっかく育った戦力が抜け、また一から育成しなければならない。属人化のしわ寄せは、いつも現場にのしかかっていた。

パソコンショップから、駄菓子メーカーへの転身

そんな受注現場の革新に挑んだ栗林さんは、もともと全く畑違いの職場にいた。2007年にやおきんに転職してくる前は、秋葉原でパソコンをはじめとしたIT機器の小売店舗にいたのだ。プログラマーを志して上京したが、バイトで始めた接客の面白さにのめり込んだ。ただ、小売の仕事は閉店後の業務も多く、終電で帰る日々が続く。結婚して子どもが生まれたときに、ふと思った。

「毎日、子どもの寝顔しか見ていない。こんな生活を続けていていいのか」

長くIT業界に身を置く中で、社会がデジタル化していく流れは強く感じていたが、意外と中小企業にはそこまで浸透していないのでは、と感じていた。ならば、システムに詳しい人間が一人いればきっと会社の役に立てるはずだ——。「社内システム」「地元」と検索して職を探し、最初に受けたのが名前だけは知っていた「うまい棒の会社」だった。

面接で会った役員たちの人柄、いい意味で“昭和”な雰囲気。杓子定規でないその空気に惹かれて入社を決めた。実際に働く中で、家に持ち帰った駄菓子のカタログを見て幼い子どもが目を輝かせる。「すごい!これもパパの会社のお菓子なの?」と。

「うちの会社は、子どもたちにこれほど喜ばれる商品を売っているのか、と。そういう、誇りや喜びは強く感じていましたね」

インタビューに答える株式会社やおきん システム業務課の栗林雅治さん

門外漢だから気づけた、当たり前への違和感

システム担当として働き始めたが、入社後しばらくして、人手の足りない受発注係の係長を兼ねることになった。受発注業務は初めての経験。でも、全くの門外漢だったからこそ、それまで社内で当たり前とされてきた、業務フローの違和感に気づくことができたのかもしれない。

栗林さんがまず手をつけたのが、冒頭のホワイトボードの商品情報をデジタル化すること。欠品や入荷の情報を全てExcelファイルに落とし、共有フォルダへ入れて誰の席のパソコンからでも見られるようにしたのだ。最初こそ「今までのやり方でいい」という空気もあったが、慣れれば浸透は早かった。

栗林さんは、そのExcelファイルに「デジタルホワイトボード」と名前をつけた。「これまで壁際にあったホワイトボードとほとんど変わりませんよ」というニュアンスを込め、新しいやり方へのハードルを少しでも下げたのだ。社員たちはその新しいツールを「デジホワ」という略称で呼び、まるで新しいシステムのように使いこなしていった。

ダメならやめられる手軽さが、背中を押した

やおきんの基幹システムは、堅牢なIBMのAS/400。長年会社を支えてきたこのシステムの改修は、慎重に進めないと大きな痛手になりかねない。

「基幹を変えるには2年以上の時間がかかる。かといって、それまで何もテコ入れしないわけにはいきません。そこで、基幹システムの改修と並行して、少しずつ周辺業務の改善を進めていったんです」

転機は、自社専用システムを一括で買う時代から、月額で試せるSaaSの時代へと移り変わったこと。一括で大きな投資をすると、万一使えなかった時に数百万単位のお金をドブに捨てることになる。一方でクラウド型のSaaSなら、少額で始められ、合わなければすぐにやめられる。その手軽さは、上層部の決裁を取るときの大きな後押しになると考えた。

2023年ごろ、何か良いツールはないかと展示会を訪れた栗林さんは、製造・卸売業の受注業務に特化したあるAI-OCRに出会う。過去に何度もAI-OCRの導入を検討していたものの、なかなか自社の業務に落とし込めず二の足を踏んできた。中には「注文書のフォーマットをツールの形式に合わせてほしい」と、取引先に負担を強いるような製品もあった。そんな中で、やっと自信を持って使えると信じられるツールが見つかった。

導入後、クラウドFAXサービス「e受信」との連携も進んだ。指定した番号に届いた注文書が、自動でAI-OCRの取り込みフォルダへ入っていく。あれほど苦行だった紙の仕分け業務が、少しずつ消えていった。

システムにインストールしたのは、ベテランの頭の中

入力業務の自動化は進んだが、まだ別の作業が最後の砦として残った。人の判断に頼っていたチェック業務である。取引先ごとの個別ルールや納期判断など、数多あるルールが頭の中に入っていなければ、正確にチェックはできない。

そこで栗林さんが取り組んだのが、基幹の刷新に合わせた“ルールエンジン”の内製だった。得意先・届け先・商品・出荷日といった様々な個別ルールを、現場のスタッフ自身がシステムに登録できるように設定。注文書をチェックして確定ボタンを押した瞬間、裏側でそのルールが一括で照合され、引っかかればその場でエラーメッセージが出る。はじめは100に満たなかったルールが、いまでは400から500近くにまで増えた。こだわったのは、出てくるエラーメッセージの“言葉”だ。

「『○○が正しくありません』といった機械的な警告ではなく、『この得意先には、こう処理してね』とポジティブな言葉で出すようにしたんです」

この結果、注文書の入力、確定までのスピードが格段に上がった。また、数ヶ月かけて頭に叩き込むしかなかった無数のルールを覚えなくても、システムが間違いを教えてくれるようになった。属人化の象徴だった受注業務は、誰かが急にいなくなっても回る仕事へと変わっていった。

新しいことへの挑戦が、老舗企業を新しくしてくれる

創業から半世紀を超える老舗が、なぜここまでスムーズに新しいやり方を受け入れられたのか。栗林さんは「もともと新しいもの好きな社風なんです」と笑う。栗林さんが入社した20年近く前から、パソコンは一人一台支給。基幹システムも先端的なものを活用していた。近年も、AIの目覚ましい進化を受け、AI活用やDXをもっと推進していこうというトップダウンの後押しもある。

もちろん、社内に全く抵抗がなかったわけではない。以前に棚卸し業務をハンディターミナルに切り替えようとしたときは、古参の担当者から「操作に慣れていないし、逆に時間がかかるんじゃないのか」と強い反発があった。ただ、反対を押し切って導入してみると、これまでのやり方より圧倒的に速い。すると——。

「一番文句を言っていた人が、一番協力してくれるようになったんです。『追加で、このコードとこのコードも読めるように登録しといてよ』と推進を後押ししてくれました」

年末の納会でみんなで年越しそばを食べたり、お歳暮をくじ引きして分け合ったり、そんな“昭和”の雰囲気を残しながらも、AI等の最先端ツールの活用にも積極的にチャレンジする。栗林さんは、一見両極端なこの二つが良いバランスで同居しているのが「やおきんらしさ」だと言う。

「新しいことへの挑戦を避けるくらいなら、やって失敗したほうがよっぽどいい。昔から残るそうした企業文化が、全社的なAI活用推進を後押ししてくれたんだと思います」

編集後記

「駄菓子の会社」と聞くと、どこか懐かしいイメージを思い浮かべるかもしれない。実はその裏側で、堅牢な基幹システムにSaaSやAI-OCRを組み合わせ、最先端の業務システムを作り上げてきた。「新しいことは、まずやってみる」。古くてアナログだと見られがちな業界にも、こうした挑戦のカルチャーは確実に存在する。それは、終始やわらかく、ユーモアを交えて語る栗林さんの言葉の端々からも感じることができた。

本記事は、株式会社やおきん様へのインタビューをもとに、受発注バスターズ編集部が構成しました。

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