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【AI活用先進企業特集】「好き好んで火中の栗を拾う」昭和パックスの異端児が、AIで受注業務を変えるまで

2026.10.29生産性向上
AI活用先進企業インタビュー 昭和パックス株式会社「好き好んで火中の栗を拾いに行く」

物流用紙袋や農業用ハウスフィルムなど、幅広い包装資材を手掛ける昭和パックス株式会社。創業90年を超える老舗メーカーだ。そんな同社には、全国の取引先から日々山のような量の注文書が届く。

「朝出社してきた事務スタッフが、書類の山を目にした瞬間に(あぁ、今日は残業確定だな)という顔をするんです。その姿を見た私も胃がキリキリしていました」

業務室長の小関崇夫さんは、当時の光景をそう振り返る。

マニュアル化できなかった、複雑な業務の正体

昭和パックスは全国に6つの工場を持ち、うち5つが紙製品を製造する中、静岡・掛川の工場だけが農業用フィルム製品を作っている。そして、この掛川工場の製品が長く受注業務の現場を苦しめる原因となっていた。

取引先ごとに、送られてくる注文書の仕様がまるでバラバラ。それぞれの取引先の注文書を見て、どう判断し、どう処理するか。複雑すぎてマニュアル化することもできず、長年現場スタッフの勘や判断に頼ることしかできなかった。なぜ、そこまで複雑だったのか。同席した業務室の畑さんが説明してくれた。

「農家さんはハウスをいくつも持っていて、作物によって必要な高さが変わり、それぞれのハウスの寸法もばらばら。畑の形の数だけ、全く違う寸法のフィルムが必要になるんです」

一品一様に近い注文書に対応し続けた結果、商品マスターの登録は優に1万件を超えた。厄介なのは商品の種類だけではない。同じ商品でも取引先ごとに注文書の表記の仕方がまるで違うのだ。メートル単位で発注する会社もあれば、センチメートル単位で発注する会社もある。幅・厚み・長さの順でサイズを記入する人もいれば、長さ・幅・厚みの順で記入してくる人もいる。そんな注文書を一枚ずつ読み、その顧客の記入の癖を思い出し、商品コードを調べ、10〜20項目を手入力していく。繁忙期である夏が近づくにつれて、事務スタッフの表情が曇っていくのがわかったという。

インタビューに答える昭和パックス株式会社 業務室長の小関崇夫さん

現場のつらさを知る人間だからこそ、変えるべきだと思った

この状況を変えようと声を上げたのが、受注処理業務を管轄する業務室長の小関さん。ただし彼は、業務室に来て初めてこの課題を認識したわけではない。

「自分も掛川工場にいたので、農業用フィルムの注文書の複雑さについてはよく知っていました。当然、その注文書を処理する大変さも」

1997年に入社した小関さんは、掛川工場の技術部や資材部を経て、営業として9年。その後、再び掛川工場に戻ってきた。営業時代は取引先から直接数多くの複雑な注文書を受け取り、工場では受注入力のミスがそのまま手戻りになる様子もそばで見てきた。受注処理業務の大変さを、単なる数字ではなく、手触りとして知っている。

転機となったのは、あるERPシステムの切り替えプロジェクトに参加したこと。最初は兼任だったが、後に正式に情報システム部門に異動となった。そして、そのプロジェクト後に配属されたのが、営業のバックオフィスである業務室。受注業務のつらさを肌で知る人間が、その状況を変えられるポジションに就いたのだ。やるべきことは決まっていた。

「AIさえ導入すればうまくいく」という誤解

とはいえ、最初からゴールまでの道筋が見えていたわけではない。受注自動化のツールを扱う複数社と何度も打ち合わせを重ねたが、議論はなかなか前に進まなかった。相手側も、ここまで複雑な業務への対応は経験がない。自分たちも、実現の方法はまるで見当もついていなかった。行き詰まりの正体を、小関さんは後にこう総括している。

「最初は、AIがうちのベテランスタッフと同じように、注文書のどこに何が書いてあるかを読み取って、顧客ごとの取引ルールをその場で判断して、全部きれいに書き出してくれるようなイメージを持っていたんです。まあ、そんなの無理なんですけどね」

注文書を渡せばAIがすべてを察してくれる。そんな期待を持ったまま議論するから、噛み合わない。必要なのは万能の魔法ではなく、AIが拠って立てるルールを用意することだった。突破口は、社外ではなく社内にあった。ERPを入れ替えたとき、幅・厚み・長さ・商品名を入れれば商品マスターと突合できるExcelのツールを別途用意していた。最も手間のかかる検索を引き受ける仕組みが、すでに現場で動いていたのだ。

「これを活用すれば、なんとかいけるんじゃないか、と」

AIにすべてを読ませるのではない。商品名をルール化して読み取り、厚みと長さは規格値として拾い、あとは既存のツールに渡す。役割を分けた瞬間、無理だったはずの絵が現実的な形に変わった。噛み合わなかった打ち合わせの数々が、皮肉にもその整理を進めていた。

受注業務の自動化について語る昭和パックス株式会社の小関崇夫さん

「絶対にうまくいきます」。根拠がないままそう言い切った

残っていたのは社内決裁という壁。創業90年を超える老舗である。前例のない取り組みの実施可否には、石橋を叩いて渡るような慎重な判断が下される。「そんなにお金をかけてコストに見合う成果が出るのか」——そう問われたときにどう答えるべきか。

「プロジェクトを推進する人間が、『おそらくうまくいくと思います』みたいな、曖昧な言い方をしていてはダメだと思ったんです」

だから、「絶対にうまくいきます」「チャレンジすれば必ず受注業務は楽になります」と言い切った。未来のことは誰にもわからない。成功するという根拠があったわけでもない。それでも、自信を持って推進し、失敗したときに責任を引き受けるのが、旗を振る人間の役目だと思った。

実は、稟議は一度止まっていた。取締役以上が出席する常務会で議題に上がったものの、決裁は保留されたのだ。はっきりと却下されてしまえば、もう一度議論の土台に載せるのは難しい。受注業務の改善は、数年は動かなくなってしまう。それだけは絶対に避けたかった。

同日午後、小関さんも参加する部長会で、自身の言葉でプレゼンした。このプロジェクトの価値、やるべき理由、業務が改善される仕組み、想定される費用対効果について丁寧に説明した。ダメだったら途中でやめればいい。チャレンジしないこともリスクではないか、と。

小関さんの熱意は、しっかりと伝わった。稟議は、その日のうちに通った。

繁忙期にまさかの欠員。例年なら破綻していたかもしれない

導入後の効果測定では、受発注業務にかかる時間が約6割削減。1件あたり7分以上かかっていた受注処理が、2分台で終わるようになった。想像を遥かに超える成果だ。

「驚くほど楽になりました。あんまり工数が削減されたんで、事務スタッフの人員を削減されるんじゃないかと不安になるくらいです」

手入力がほぼなくなったことで、ミスも大きく減った。納品先の取り違えや、単位の入力ミスも激減した。真価が問われたのは、導入から間もない真夏の繁忙期。一年で一番注文が集中する時期に担当者1名が休職するという想定外の事態が起きる。それでも、受注業務を止めなかった。残されたメンバーだけで、繁忙期を回し切ったのだ。担当者が1名しかいない本社以外の事業所でも、AI活用による負担の軽減がそのまま残業の削減につながった。

事務スタッフからは次々と「業務がとても楽になった」という喜びの声が上がった。暗い表情でその日の受注をこなすのに精一杯だった現場から、次なる改善を求める前向きな声も出始めている。

導入後の成果を振り返る昭和パックス株式会社の小関崇夫さん

編集後記

小関さんは、自身を「変わってると思いますよ」と言う。自分が注文書を打つわけではないし、受注業務を改善したところで、自らの残業が減るわけでもない。それでも手をつけたのは、役職者の中で受注の現場の苦労を誰よりも知っているのは自分だとわかっていたからだ。人からはこう言われるという。「小関さんって、好き好んで火中の栗を拾いに行くよね」。本人は否定しない。

では、なぜ彼はこんな思い切ったチャレンジができたのか。取材で印象に残ったのは、失敗のリスクを語るときの軽やかな口調だった。

「うちは、もしチャレンジして失敗してもクビになることはないと思うんです。きっと降格もない。実際、降格になった人を私は見たことがありません」

新しいことを始めようとすれば、石橋を叩いて叩いて叩き壊すほど慎重に議論される社風ではある。けれど、挑戦が実らなかったからといって、その人の居場所も役職も給料も奪われることはない。決裁を取るまでのハードルは高いが、挑んだ人を決して切り捨てない。良くも悪くも、古き良き日本の会社なのだと思う。

若い世代に昭和パックスの魅力をどう伝えるか尋ねると、小関さんは少し考えて、「ミスをしても、最終的には笑い話で許される会社だよ」と答えた。その懐の深さが一人の異端児を許容し、受注業務の自動化という革新につながっていった。イノベーションは会社からの号令で生まれるわけではない。火中の栗を拾いに行くたった一人の意志から始まるのだ。

昭和パックス株式会社のロゴサインの前に立つ業務室長の小関崇夫さん

本記事は、昭和パックス株式会社様へのインタビューをもとに、受発注バスターズ編集部が構成しました。

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