コラム

食品業界の「注文書自動化」完全ガイド|FAX・PDF・EDI・AI-OCR・RPAをどう組み合わせるか

食品卸や製造業の受注担当者にとって、FAXやPDFで届く注文書の手入力作業は大きな負担です。1日に数十件、多い企業では数百件の注文を処理しながら、温度帯別の在庫確認、ロット管理、帳合処理、与信チェックといった複雑な業務が同時進行します。
しかも取引先によって注文方法がバラバラで、紙FAX、PDF添付メール、Excel、Web-EDIが混在している状況も珍しくありません。
本記事では、こうした食品業界特有の課題を踏まえ、AI-OCR・RPA・EDIを組み合わせた注文書自動化の実践方法を解説します。実際に受注の9割をデジタル化して作業時間を3分の1に削減した事例や、年間3,000時間超の削減を実現した企業の取り組みも紹介しながら、失敗しない導入ステップとツール選定のポイントをお伝えします。
まず結論:食品の注文書自動化は「辞書×例外設計×温度帯/ロット対応」が勝ち筋

注文書自動化プロジェクトを成功させる鍵は、いきなりツールを導入することではありません。「標準化できる業務」と「例外処理が必要な業務」を先に切り分けることが最重要です。
自動化を高速道路に例えるなら、スムーズに流れる本線だけでなく、出口ランプ(例外処理ルート)をどこに設けるかを事前に設計する必要があります。食品業界では以下の要素が例外を生みやすいため、自動化の前に業務ルールを明文化しておくことが成功の前提条件です。
食品業界で自動化前に整理すべき業務ルール:
• 温度帯管理
常温・冷蔵・冷凍の混載可否、配送ルートの制約管理。
• ロット・消費期限
先入先出の引当ルール、賞味期限1/3ルールへの対応。
• 帳合処理
直送か物流センター経由か、メーカー直送の条件判断。
• 価格・与信
顧客別単価・掛け率・与信限度額の自動チェック。
• 納品先コード
得意先の倉庫・店舗コードと自社コードの紐付け。
これらのルールを「辞書」や「マスタデータ」として整備し、無人で通過できる注文(自動化率95%以上を目標)と、人が判断すべき例外注文を明確に分けることが、食品業界における注文書自動化の勝ちパターンです。
現状の課題:紙(FAX/PDF)とEDIが混在、手入力・二重チェックがボトルネック

紙・FAX・Excelが残る理由
多くの食品企業が「なぜまだFAXなのか」という疑問を抱えています。デジタル化が進む現代でも紙の注文書が残る背景には、取引先のデジタル化の温度差があります。特に中小の飲食店や小売店では、専用端末の導入コストや操作習熟の負担から、従来のFAX注文を続けているケースが多いのです。
また食品業界特有の事情として、小ロット・多品種対応の複雑性があります。季節商品や特注品、急な数量変更への柔軟な対応が求められるため、「電話で確認してFAXで確定」という運用が定着しています。さらに受注側も、Excelで集計・加工する文化が根強く、システム化によって現場の柔軟性が失われることへの抵抗感が残っています。
従来型OCRの3つの限界
こうした紙注文に対応するため、多くの企業が文字認識(OCR)技術を検討してきました。しかし従来のOCRには以下の限界があり、食品業界での実用化が進みませんでした。
1. 文字認識率の問題
手書きやかすれた文字、FAXの画質劣化に弱く、数字の「1」と「7」、「0」と「6」の誤認識が頻発します。食品では数量ミスが即クレームにつながるため、結局すべての注文を目視確認する運用となり、自動化の意味が薄れていました。
2. 場所特定率の問題
従来OCRは「この座標に品番がある」という固定位置での読み取りが前提でした。しかし取引先ごとに注文書フォーマットが異なる食品業界では、帳票ごとに読み取り位置を定義する作業が膨大になり、運用が破綻するケースが続出しました。
3. 定型フォーマット限定
手書きの追記や、行をまたぐ備考欄、不規則な罫線など、非定型の帳票には対応できませんでした。食品では「冷凍品のみ先行出荷」「賞味期限○日以上」といった特記事項が頻繁に発生するため、これらを拾えないOCRは実務で使えないと判断されてきました。
現場で起きている実害
こうした技術的限界により、受注担当者は依然として以下の業務に追われています。
• 1日2〜3時間の手入力作業
FAX・PDF・Excelで届く注文内容を、毎日基幹システムへ手作業で転記。
• ダブルチェック体制による人的コスト
入力ミス防止のため、2名体制での確認作業が常態化。
• 入力ミスによる出荷遅延・クレーム
数量違い、温度帯の間違い、納品先誤送などが発生。
日立システムズの調査によれば、食品業界では紙とEDIが混在することで仕分けと手入力が現場の大きな負荷になっており、従来OCRの文字認識率・場所特定率・定型フォーマット限定という3つの課題が業務効率化の妨げとなっています。
解決策の全体像:AI-OCR × RPA × EDI/EOSのハイブリッド運用

現在の技術では、これらの課題を単一ツールで解決することはできません。重要なのは複数の技術を段階的に組み合わせるハイブリッドアプローチです。
AI-OCRで非定型帳票・手書きに強くする
従来OCRの限界を突破したのが、AI(機械学習)を活用したAI-OCRです。AIによって認識率と場所特定率が向上し、帳票定義作業の削減や不要化が進んでいます。
AI-OCRの進化ポイント:
• ディープラーニングによる文字認識
手書き文字やかすれた文字にも対応し、学習データの蓄積によって認識精度が継続的に向上。
• レイアウト解析機能
「品番はこの欄の左上あたり」といったように、帳票内の位置関係をもとに項目を推定。
• 非定型帳票対応
固定フォーマットでなくても、「品番」「数量」などの項目名を手がかりに自動で判別。
実際の現場では、手書き注文書でも7〜8割の識字率を実現するケースが増えています。残りの2〜3割も、AI-OCRが「信頼度スコア」を付けて人間に確認を促すため、全件を目視するよりはるかに効率的です。
RPA連携で「確認以降〜基幹登録」まで無人化
AI-OCRで読み取った後も、人手の作業は残ります。読み取り結果の確認、価格・在庫の照合、基幹システムへの登録、出荷指示書の発行といった後工程です。
ここでRPA(Robotic Process Automation)を連携させることで、確認作業以降の工程を自動化し、大幅な工数削減を実現する企業が増えています。RPAは人間の操作を模倣するソフトウェアロボットで、以下のような作業を24時間無人で実行できます。
• OCR結果の確認画面を自動で開き、信頼度の高いデータは無人承認
認識精度が高い項目は人手を介さず自動で確定。
• 基幹システムにログインして受注データを自動登録
RPAにより、基幹システムへの入力作業を自動化。
• 例外(在庫不足、与信オーバー)が発生したら担当者にメール通知
判断が必要なケースのみ、人が対応。
• 夜間バッチで出荷指示・納品書・送り状を一括発行
日中の業務負荷を減らし、出荷業務を効率化。
Web-EDI/EOSはAランク取引先から段階移行
紙をなくす根本的な解決策は、取引先にWeb-EDI(電子データ交換)やEOS(オンライン受発注システム)を使ってもらうことです。しかし全取引先に一斉導入を求めるのは現実的ではありません。
段階的移行の現実解:
• Aランク取引先(取引量上位20%)
主要取引先からWeb-EDI導入を働きかけ、受発注の完全デジタル化を推進。
• Bランク取引先
当面はAI-OCR+RPAで対応し、手入力を削減しつつ効率化を図る。
• Cランク取引先(小ロット・低頻度)
紙の併存を許容しながら、段階的にデジタル化へ移行。
内田洋行の事例では、Web注文データの自動化に取り組み、1カ月で100本以上のスクリプトを作成し、年間3,000時間超の削減を実現しています。こうした大規模な効果を出すには、優先順位をつけたハイブリッド運用が不可欠です。
マスタ&辞書:品名ゆらぎ・納品先コードを整える
自動化の精度を左右するのが、マスタデータと辞書の整備です。特に食品業界では、同じ商品でも取引先によって呼び方が異なる「品名ゆらぎ」が深刻です。
整備すべきマスタと辞書:
• 商品マスタ
自社品番・JAN・得意先品番に加え、略称や別名を含めた対応表を管理。
• 納品先マスタ
得意先の倉庫・店舗コードと、自社の納品先コードを紐付けて管理。
• 温度帯・荷姿マスタ
常温・冷蔵・冷凍の区分や、ケース・バラの単位換算ルールを管理。
全国農協食品の導入事例では、納品先コードの統一により運用が大幅に滑らかになり、受注業務のデジタル化率90%、作業時間を従来の3分の1に削減することに成功しています。
成果事例で期待値を可視化(ベンチマーク)
全国農協食品:受注の9割デジタル化/作業時間1/3に短縮
全国農協食品では、FAX受注の手入力作業をゼロ化するため、発注書AI-OCRを導入しました。選定理由は読み取り精度の高さ、費用対効果の明確性、そして無料トライアルでの事前検証が可能だった点です。
達成した成果:
• 受注業務のデジタル化率
全体の約90%をデジタル処理に移行。
• 作業時間
従来と比べて約1/3まで短縮。
• 手入力作業
ほぼゼロ化を実現。
同社が重視したのは、読み取り精度だけでなく操作性の高さでした。現場担当者が直感的に使えるUIであることが、定着率を高める決め手となりました。
食品メーカーA社:AI-OCR+RPAで年間運用コスト削減
ある食品メーカーでは、従来OCRの課題をAI-OCRで解消し、さらにRPA連携で後工程まで自動化することで、年間の運用コストを大幅に削減しました。特に非定型帳票への対応力が向上したことで、これまで手入力せざるを得なかった取引先の注文書も自動処理の対象になりました。
よくある質問(FAQ)

Q1. 手書き注文書はどこまで読めますか?
A. 最新のAI-OCRでは手書きでも7〜8割の識字率を実現しています。ただし、筆圧が弱い・癖字が強い場合は人的確認が必要です。導入前のトライアルで実際の帳票での精度検証を推奨します。
事例: インフォマート導入事例でのコメント要約
Q2. 紙とEDIが混在してもワンオペで回せますか?
A. はい、可能です。AI-OCR+RPA+段階的Web-EDI移行のハイブリッド運用で実現できます。重要なのは「優先順位付け」と「例外処理の自動振り分け」設計です。
裏付け: 日立システムズ・インフォマート両事例
Q3. どのくらいの期間で効果が出ますか?
A. PoC後の本番展開で1〜数ヶ月で効果が見え始めます。規模にもよりますが、年間3,000時間超削減の実例もあります。段階展開により早期のクイックウィン獲得が重要です。
実例: 内田洋行の年3,000時間超削減
Q4. 小規模事業者でも導入できますか?
A. 可能です。クラウド型の従量課金プランを選択すれば初期投資を抑えられます。まずは主要取引先3〜5社からスモールスタートする方法が現実的です。
Q5. 既存の基幹システムを変えずに導入できますか?
A. 多くの自動化ツールはAPI連携やRPA経由で既存システムとつながります。基幹システムの大幅改修は不要なケースが大半です。
Q6. セキュリティ・個人情報保護は大丈夫ですか?
A. クラウド型はISO27001取得、オンプレ型は社内ネットワーク内で完結など、選択肢があります。要件定義時にセキュリティポリシーを明確化することが重要です。
受発注バスターズ編集部
受発注バスターズ株式会社(旧:株式会社batton)は、AI搭載の業務効率化ツール「受発注バスターズ」やRPA「batton」の開発・提供を通じて、製造業・卸売業・商社の業務効率化とDXを支援しています。
「誰もが、仕事を遊べる時代へ。」をミッションに掲げ、属人化の排除や作業の自動化によって、人手不足やミスの多発といった現場の課題解決に取り組んでいます。
- 会社名:受発注バスターズ株式会社(旧:株式会社batton)
- 設立:2019年8月14日
- 所在地:〒104-0032 東京都中央区八丁堀3丁目5-4 NOVEL WORK 京橋 3F
- 公式サイト:https://batton.co.jp/
※本記事は「受発注バスターズ編集部」が執筆・監修しています。
